生き物

競走馬が「自分がレースしている」ことを認識している可能性は低い


「競走馬はレースに参加していることを知っているのか」「競走馬には勝ちたいという思いはあるのか」「鼻がゴールラインを通過することが何を意味するか知っているのか」という疑問について、オーストラリアにあるチャールズスタート大学の農環境獣医学部講師であるキャサリン・ヘンシャル氏は、数十年の経験と馬の行動についての知見から、「ノー」という答えを示しました。

Do racehorses even know they're 'racing' each other? It's unlikely
https://theconversation.com/do-racehorses-even-know-theyre-racing-each-other-its-unlikely-216641


そもそも、馬の視点から見ると、レースに勝つことで得られるものというのは本質的に存在しません。ゴールすることで「騎手にこれ以上ムチで打たれなくて済む」という結果は得られますが、これは1位ではなくても同じで、またレースが接戦になると先頭集団の方が激しくムチを打たれる可能性すらあります。つまり、馬がレースで自発的に速く走る動機は存在しないといえます。

馬にとって走ることは自発的行動の1つで、騎手がいなくても機会があれば一緒に走ることがあります。しかし、集団で走ることはあっても「集団の中で1位になりたい」という欲求は育っていないとヘンシャル氏は指摘しています。社会的動物である馬にとって、野生環境下においての集団行動は捕食者への暴露を最小限に抑えるための行動であり、群れのメンバーより速く走って1位になるということは捕食のリスク上昇につながるためです。


競馬は、この「馬が他の馬と同調して走ろうとする」傾向を生かしつつ、騎手の合図に応じて生来の傾向を無視して走るように調教することでレースを成立させています。

馬たちは「レースに参加している」という意識はないかもしれませんが、調教により、レース中に何が起こりうるか、何をすればいいかを学んでいきます。そして調教師や騎手は、個性と能力に合わせて、競走馬をそのレースで最も早くゴールを駆け抜けられるようにマネジメントします。

ヘンシャル氏は、レースでどの馬が勝つかは、「誰よりも早くゴールしたい」という馬の欲求よりも、その馬が生来持つ能力や体力、そして騎手の技術の組み合わせである可能性の方がはるかに高いとまとめています。

しかし、「わかって走っているのでは?」と思わせるレースがあるのも事実。2022年の天皇賞(春)では17番・シルヴァーソニックの川田将雅騎手がスタート直後に落馬してしまいますが、シルヴァーソニックはそのまま騎手を乗せないカラ馬として集団とともに走行。最終的に勝ったタイトルホルダーをマークするような形でゴールまで走りきっています。

2022年 天皇賞(春)(GⅠ) | タイトルホルダー | JRA公式 - YouTube


騎手によるコントロールがなくなると制御が効かなくなりそうにも思えるのですが、一方で50kg超の「重り」がなくなることでカラ馬が好走する事例は少なからずあります。有名なものの1つが、2008年のエリザベス女王杯。5番・ポルトフィーノの武豊騎手がスタート直後に落馬しますが、ポルトフィーノは常に先頭を走り、第3コーナーから第4コーナーでは大きく外に膨らんで中継映像から姿が消えたものの、直線で内側へ切り込んできて勝利したリトルアマポーラの1馬身前方でゴールを走り抜けました。

2008年 エリザベス女王杯(GⅠ) | リトルアマポーラ | JRA公式 - YouTube

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in 生き物,   動画, Posted by logc_nt

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