サイエンス

発見されていない未知のコロナウイルスにまで対応できる可能性を持つコロナウイルスワクチンが開発される


2002年から2003年にかけて感染が拡大した重症急性呼吸器症候群(SARS)や、2020年以降世界中に広まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、コウモリなどの宿主が持つコロナウイルスが変異して人間に感染し、拡大しました。コロナウイルスには複数の種類が存在していますが、ケンブリッジ大学などの研究チームが、これまでに発見されていない未知のコロナウイルスにも対応できるワクチンを開発しました。

Proactive vaccination using multiviral Quartet Nanocages to elicit broad anti-coronavirus responses | Nature Nanotechnology
https://www.nature.com/articles/s41565-024-01655-9


Our new vaccine could protect against coronaviruses that haven’t even emerged yet – new study
https://theconversation.com/our-new-vaccine-could-protect-against-coronaviruses-that-havent-even-emerged-yet-new-study-229165

Scientists create vaccine with potential to protect against future coronaviruses | Vaccines and immunisation | The Guardian
https://www.theguardian.com/society/article/2024/may/06/scientists-create-vaccine-potential-protect-against-future-coronaviruses

2020年から始まったCOVID-19の感染拡大以降、原因ウイルスであるSARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対して、ヒトに獲得免疫を提供することを目的としたCOVID-19ワクチンが急速に開発され、COVID-19感染後の死亡や重症化の危険性を軽減することが可能になりました。

SARS-CoV-2もSARSやMERSの原因ウイルスと同様、症例が確認されるまで発見されていませんでした。そのため、対応が後手に回り、壊滅的なパンデミックが引き起こされたというわけです。また、コウモリを宿主とする一部のコロナウイルスは人間に感染する可能性があることが確認されており、将来的なパンデミックを引き起こす可能性が危惧されています。

そこで研究者らは、未知のコロナウイルスによる将来のパンデミックの脅威からどのように人間を保護するかについて検討を重ねています。従来のワクチンは通常、弱毒化した目的とするウイルスを投与することでそのウイルスから身を守る単一の抗原を使用します。そのため、投与しなかった別のウイルスや、未知のウイルスに対してワクチンの効果が現れないという問題がありました。


ケンブリッジ大学やオックスフォード大学などの研究チームは、4種類のコロナウイルス由来の無害なタンパク質を極小のナノ粒子に付着させ、それを注入することでウイルスが侵入した場合に備えて体の防御力を高める「ナノケージワクチン」を開発しました。研究チームによると、ナノケージワクチンは異なる多くの種類のコロナウイルスに共通するタンパク質を標的とするように体の免疫系を訓練するため、コロナウイルスに対する防御範囲が広がり、同じ種類の既知および未知のコロナウイルスに対して効果を発揮するとのこと。

研究チームはこのナノケージワクチンをマウスに投与し、SARSの感染拡大を引き起こしたSARSコロナウイルス(SARS-CoV-1)に感染させました。すると、ワクチンのナノ粒子にSARS-CoV-1由来のタンパク質が添加されていなくても、SARS-CoV-1に対する広範な免疫反応が確認されました。

ケンブリッジ大学のロリー・ヒルズ氏は「私たちは、ナノケージワクチンのような比較的単純なワクチンでも、さまざまなウイルスに散発的な反応を示すことができると示しました」「ナノケージワクチンの開発は、パンデミックが始まる前にワクチンを作るという大きな目標に向けて一歩前進するものです」と語っています。

ヒルズ氏によると、ナノケージワクチンは微生物を培養できる既存の施設で製造することが可能で、産業界のパートナーと協力して開発プロセスの拡大に向けた取り組みを行っているとのこと。また、研究チームは次のステップとして、ナノケージワクチンをヒトでテストすることを明かしています。テストの結果、ナノケージワクチンの安全性が証明されれば、COVID-19に対するブースター接種として使用される可能性があります。ヒルズ氏は「ナノケージワクチンの接種が承認され、製造が拡大されれば、各国がワクチンの在庫を保有するようになり、将来的な未知のコロナウイルスやその他の病原体の感染が始まった場合でも迅速に対応することができるようになります」と述べました。


研究チームのマーク・ハワース氏は「科学者たちは、COVID-19のパンデミックの際、非常に効果的なCOVID-19ワクチンを迅速に製造するという素晴らしい仕事をしましたが、世界では依然として多数の死者が発生しています。そのため、将来的にはCOVID-19ワクチンよりも良い方法を考え出す必要があり、その中の一つがワクチンを事前に製造しておくことです」と指摘しています。

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in サイエンス, Posted by log1r_ut

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